今週は名古屋方面に出張があり少々時間があったので、日本の自動車産業の雄、トヨタグループの歴史と工夫を学ぶきっかけとなればと思いトヨタ産業技術記念館を訪れました。

トヨタ産業技術記念館とは

かつての豊田紡績本社工場であったトヨタグループ発祥の地に設立された、近代日本の発展を支えた繊維機械と、現代を開拓し続ける自動車の技術の変遷を紹介する博物館です。
トヨタ自動車さんは、豊田市の本社横にもトヨタ会館という博物館がありますが、こちらは織機の時代からの展示があるのが特徴になっています。

豊田佐吉の時代を中心とした織機事業について

トヨタグループはご存じの方も多いと思いますが、創業者    豊田佐吉が織機を作る事業を始めたところが原点となっており、その事業は現在も豊田自動織機さんで引き継がれています。

こちらはエントランスにある巨大な環状織機。こちらも豊田佐吉が明治39年に発明したもので、回転運動により環状の布を織りあげます。イメージは巨大な鯉のぼりを作り上げる感じでしょうか。その巨大さと緻密な仕組みに驚きます。

布を織るためには縦糸と横糸を交互に入れ替えながら織っていくわけですが、この機械ではなんと1000本以上!の縦糸に環状に走るよこ入れが円周軌道を走ることで、環状の布が織られていきます。佐吉はこの機械を明治39年に発明したとのことで、その先進性、独創力に驚かされます。
詳しくは、記念館サイト⇒https://www.tcmit.org/about/circularloom/ で動く様子もありますので見てみてください。



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そして、繊維機械館では開発された数多くの織機や紡績機が並ぶ圧巻の景色です。
こんなにも多くの種類の機器を開発し、生産されていたとは、改善を繰り返す努力と、それぞれ一人ひとりにあった用途に合わせる工夫が現代のトヨタ自動車の幅広いラインナップと重なるように感じました。

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そしてこちらの展示は、当時の織機の生産ラインを模擬したもの。
床下のチェーンで織機が流れながら組み立てていく流れは、金属加工や大量生産の技術をここから身に着けていったのか、と思わせます。

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そして、繊維機械館最後は最新型の織機。
現在は織り上げスピードの向上をはかるとともに様々な模様を織ることも可能となっています。詳細は以下の動画に詳しいですが、私が印象に残ったのはどちらも”噴流(ジェット)の力”を使っていること。
横糸を通す際に機械で糸を通すとその機械を一度スタート地点まで戻さなければいけませんが、水や空気の噴流で糸を送り、一本通してそこで一度切ってしまえば機械が返ってくる時間を省略できるため、ジェットを用いているのだと思います。
噴流の応用については、エンジンの燃料噴射装置や高圧洗浄機などでは使われていることを理解していたものの、こんな形でも応用されているとは全く思わなかったのでとても面白く思いました。


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トヨタ自動車の歩みについて

つづきまして、自動車館ではトヨタ自動車の歩みを学ぶことができます。
はじめは、欧米を視察した豊田佐吉の息子 喜一郎が各国での自動車の普及を目にするとともに、震災時における自動車の利便性、力を目の当たりにすることから自動車事業の可能性を確かなものにしていきます。

このあたりのストーリ性は先日の「人生の教室」読書会(松岡正剛『18歳から考える国家と「私」の行方 〈西巻〉』人...)@人生の教室    課題本でも何度も語られていたように歴史イベントの交錯や時流を読んだ動きとうまくマッチしたことを感じさせます。

ともなく、喜一郎はアメリカ製の補助エンジンを自転車に取り付けることから研究を始めたようです。このころはタイヤとセットになったエンジンを取り付け三輪車として使う形だったようですね。これでも、50km/h程度の速度がでたというのだから驚きです。でも、その速度では自転車のブレーキでは心もとなく、扱いは難しかったことでしょう。
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そして次は、最初のオリジナル量産自動車AA号の生産風景。
当時は手作業で鉄板を木型の車両模型に合わせてハンマーで叩き自動車を形作っていたとのこと。シンプルな作り方ですが、まさに職人の手作業で一台一台の味がでるものだったことと思います。

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そしてこちらが実際のAA号(レプリカ)。
クラシックな流線形がとても魅力的です。ボンネットのエンブレムは今では衝突安全性からもつけられないものですが、豊田の漢字を入れたデザインがとてもかっこよい!
トヨタ AA号 エンブレム - Google 検索

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室内を見て印象的なのは
①観音開きのドア
②後席の広大な空間、とくに広い足元
③運転席のクラクション(黒丸のゴム)
ですね。当時、この車両は初任給の50か月分の価格であり、後席に客を乗せる形態で主に使われたようです。そのための後席の広さだったり、自分では閉めない(運転手が閉めるのことが前提)、おもてなし感のある観音開きドアが使われたのではないでしょうか。

またクラクションはハンドルが重かったため手を離すことができず、両足で挟んで鳴らしていた、また当時は道路に牛、馬がまだいたため、大きなホーンの音は彼らを脅かしてしまうため、優しいエアホーンが使われたなど、時代背景を感じさせとても興味深い造りでした。


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見学による学び

①トヨタグループは明治から昭和の近代化の波に最も適合した戦略をとった会社であった
時代が求めた繊維、織物事業から自動車事業へ、その時代のトレンドをきちんと追ったからこそ、現在の巨大企業につながったのだと、改めて理解をしました。

また、そこにつながるためには、明治時代に佐吉が上海へ進出したり、昭和初期の時点で喜一郎が欧米の視察、研修に臨んだりと、トレンドを追うためのきっかけが仕込まれています。これらの機会はすべての人に与えられないものですが、たまたま得られた機会を経済と技術の舞台で最大限に活かした、ということだと思います。

②織機の複雑な仕組みや生産技術の自動車事業への応用性
織機について、きちんとものを見るのは初めてでしたが、この比較的複雑な機械に取り組んだことで、機械の専門家が育ち、加工技術、生産技術が発展し、自動車事業につながったのだと、その関連性について深く理解をしました。複雑なことは大変、だから機械化、自動化したい、というのはシンプルな発想ですが、それを実現するのはもっと難しい。そこに取り組んだからこそ、独自の存在となれたのだと思います。

また、ここに写真は省力しましたが、材料研究や金属加工技術についても緻密に行われていたストーリが展示されており、この創業期から技術とロジックを重視し、研究開発に取り組んでいた様子を感じることができました。

③ヒストリーとストーリを大切にする文化
いや、この博物館、本当におもしろいストリー性が表現されていますし、それを補うための説明員の数も印象的でした。それに加え、Yuotubeでバーチャルツアーも整備されている。これは過去の栄光を保存するというよりは、このモノづくりの歴史をきちんと次世代と共有するための伝承ツールとして整備されているのではないか、と感じています。
私自身、モノづくりに携わる人間として、少子化や理科離れが叫ばれる今日、若い世代にものづくりや技術を考える楽しさを伝えることの重要性がさらに高まっていると感じてます。そのための伝承ツールとして、この博物館はとてもよくできていると感じました。
(ここでいうモノはバーチャルでももちろん構わないと思っています、要はユーザーでなくプロデューサ視点に向かわないと、ということです)

トヨタさんは最近時、出光さんとの協業による全固体電池の2027-28年量産化に向けた取り組みを発表されました。さらに時代の流れを読みながら、独自の技術イノベーションを続けていかれることを期待したいと思います。